2026年9月に講師として登壇した
「ISO9001:2026/ISO14001:2026」セミナーで、ご質問の多かった事項をQ&A形式でまとめました。
ISO改正・改訂への対応や、ISOによって業務が増えていることを懸念される組織様が多いことから、
本記事は解説を必要最小限に絞り、「結論 → 理由 → 実務のコツ」の順で端的にお答えしています。
移行スケジュール
Q1:ISO9001:2026/ISO14001:2026の移行期限は、もう確定していますか。
はい、2026年9月に確定しました。
認定機関の国際組織であるGlobal ACI(旧IAF:国際認定フォーラム)が、両規格の移行要求事項を公表しています。
いずれも移行期間は3年間です。

移行審査は、定期審査(サーベイランス)・更新審査の中で実施するか、別途の移行審査として実施します。
具体的な受審時期は、契約している認証機関の案内で必ずご確認ください。
Q2:国内はJISの発行が遅れますが、JIS Q 9001:2026を待たないと移行審査は受けられないのですか。
国内の認証審査はJIS規格に基づいて行われるため、
ISO9001は実務上、JIS発行(2026年12月予定)以降が移行審査の本格的な開始時期になります。
ISO14001はJIS Q 14001:2026が既に発行済みのため、受審可能な状態です。
ただし、ギャップ分析や文書改訂案の作成はJIS発行を待たずに着手できます。
待ち時間を準備期間として活用することをお勧めします。
Q3:準備はいつから始めればよいですか。更新審査のタイミングとの関係を教えてください。
ロードマップの目安は次の4段階です。
- STEP1(今すぐ〜3か月)ギャップ分析の実施、社内の推進担当者・体制の決定
- STEP2(3〜9か月)マニュアル・規定の改訂案作成、内部監査員の再教育
- STEP3(9〜18か月)改訂文書の運用開始。内部監査・マネジメントレビューを1サイクル回して実効性を確認
- STEP4(更新審査の6か月前目安)認証機関と移行審査の実施時期を確認・調整
一般的には、次回の更新審査または直近の定期審査のタイミングで認証機関から移行審査の案内が届きます。
そこから逆算して計画を立ててください。
Q4:移行審査は通常の審査に上乗せとなり、工数や費用が増えるのでしょうか。
一般的には、通常の定期審査・更新審査に合わせて移行審査を受ける形が推奨されています。
国際的にも、組織への過度な審査負担や費用の増加を抑える方向で調整が進められています。
ただし、追加工数の有無・程度は認証機関ごとの運用によりますので、個別にご確認ください。
なお、4.1(組織の状況)・4.2(利害関係者)・5.2(方針)は経営層の判断が関わるため、
移行審査ではトップインタビューの時間を通常より多く取る傾向があります。
そこから逆算して計画を立ててください。
Q5:ISO9001と14001を統合運用しています。同時に移行できますか。
共通する変更点(6.3 変更の計画策定、9.2.2 監査目的の明確化、9.3 マネジメントレビューの3分割、文書化した情報の表現統一など)は、
1本の改訂プロジェクトでまとめて処理できます。
ただしISO14001が先行して発行されているため、「14001の移行対応を先に進め、9001分を後から合流させる」段階的な進め方が現実的です。
統合マニュアルの構成は大きく崩さず、条文対応表(新旧対比・9001と14001の対応)を別紙で整備する方法が、改訂の手間を最小限にできます。
文書・記録の改訂
Q6:マニュアルや規定類は全面的に作り直す必要がありますか。
全面刷新は不要です。
今回の改訂は、2015年版のようにシステム全体の作り直しを求めるものではなく、
認証機関の公式案内でも「現行の仕組みをベースに、新しい要素を補強・追加する」アプローチが推奨されています。
進め方は次の4ステップです。
- 現行の仕組みとの差分(ギャップ)を確認する
- 既存文書へ追記・ワンポイント修正する
- 日常業務(内部監査・マネジメントレビュー)の中で確認する
- 通常の定期審査・更新審査に合わせて移行審査を受ける
Q7:最低限、どの文書から手を付ければよいですか。
優先度の高い順に、次の5点から着手してください。
- 用語の置き換え「維持する」「保持する」→「利用可能な状態にする」に統一
- 表記の統一「改善」→「継続的改善」(箇条10の再構成に伴う箇条番号の見直しを含む)
- 6.3 変更管理規定の新設、または既存の変更管理手順への追記(コミュニケーション/有効性の監視/結果のレビュー)
- 方針の改訂品質方針に品質文化・倫理的行動、環境方針に天然資源の保護への言及を追加
- 内部監査規定「監査目的」を監査計画書の必須記載項目に追加
Q8:「維持する/保持する」が「利用可能な状態にする」に変わったことで、
記録の保管期間や管理ルールを変える必要がありますか。
記録の保管期間や管理ルールを変える必要がありますか。
運用や記録の水準そのものが大きく変わるわけではありません。
表現・用語レベルの整理ですので、実務上の整理は従来どおりで結構です。

文書管理規定に「文書」と「記録」の一覧表を1枚組み込んでおくと、審査員への説明も、新任担当者への引継ぎもスムーズになります。
Q9:社内文書の「改善」という表記を、すべて「継続的改善」に直す必要がありますか。
機械的な全置換までは不要です。
優先すべきは、規格要求を引用している箇所(品質方針・環境方針、マニュアルの箇条10に対応する記述、内部監査チェックリストなど)です。
あわせて、ISO9001では2015年版の10.1(一般)と10.3(継続的改善)が10.1に統合されました。
社内文書で「10.3参照」としている箇所は参照ずれが生じますので、点検を忘れずに行ってください。
気候変動・環境状態
Q10:4.1で「気候変動は当社に関連しない」と判断することは認められますか。
ISO9001では認められます。
要求は「気候変動が関連する課題かどうかを決定する」ことであり、必ず「関連あり」とせよという要求ではありません。
ただし、どちらの判断でも根拠の説明が求められます。誰が・いつ・何を根拠に判断したかを記録に残してください。
一方、ISO14001:2026では、気候変動を含む環境状態を課題に「含めなければならない」という強い書きぶりです。
EMSでは検討そのものが必須である点にご注意ください。
Q11:気候変動が「関連あり」となった場合、CO2排出量の算定やTCFD開示まで求められるのでしょうか。
規格として、排出量の算定や情報開示そのものを要求しているわけではありません。
実務対応のイメージは次の範囲です。
- 外部課題一覧への「気候変動」の追加
- 気候変動リスク評価表の作成(影響度・発生確率の評価基準の設定)
- 監視指標の定義と対策計画の策定
ただし、この検討はTCFD/TNFDなどの非財務情報開示の流れと地続きです。
上場企業やそのサプライヤーの立場では、将来の開示要求も見据えて整理しておくと無駄になりません。
Q12:都市部のオフィスやサービス業でも、生物多様性・生態系の健全性まで検討が必要ですか。
ISO14001:2026の4.1では、
「汚染レベル・天然資源の利用可能性・気候変動・生物多様性・生態系の健全性」
といった環境状態を課題に含めることが求められています。
まずは課題一覧で、この5項目が漏れなく検討されているかを確認してください。
検討した結果「影響は限定的」と判断すること自体は問題ありません。
検討していないことは指摘対象になり得ます。
品質倫理・倫理的行動
Q13:「品質文化」「倫理的行動」は、具体的に何を用意すればよいのでしょうか。
新しい証拠書類を作るというより、既存の記録の残し方を一段丁寧にすることで多くはカバーできます。
- 品質方針への価値観の明記
- 現場対話の定期開催、品質指標(KQI)の設定
- 品質倫理基準・通報窓口の整備、倫理教育の実施
審査では、教育記録・意識調査・改善活動などからトップの関与と現場への浸透度が確認されます。
「方針に一文追加しただけ」では指摘を受けやすい点にご注意ください。
なお7.3(認識)にも「品質文化及び倫理的行動」が新たに追加されています。
Q14:ISO10010の品質文化アンケートは、実施が必須ですか。
必須ではありません。
ISO10010は手引の規格であり、ISO9001の要求事項ではありません。
ただし、附属書に掲載されている従業員アンケート例(5段階評価)や「望ましい品質文化/望ましくない品質文化」の対比表は、
「現状はどちらに近いか」を話し合う材料としてそのまま使えます。
方針の周知やミーティングに自己評価の視点を加えるだけでも浸透度の証跡になりますので、
新たに大掛かりな制度を作る必要はありません。
変更管理(6.3)
Q15:「6.3のために、新しく「変更管理規定」を作らなければなりませんか。
別体系を新たに作る必要はありません。
既存の仕組み(設計変更管理・購買先変更・人事異動フローなど)に、品質/環境影響評価のチェック欄を追加する形でも対応できます。
変更管理台帳を1様式整備するだけで、多くの変更に対応可能です。

ISO9001:2026の6.3では
「変更のコミュニケーション」「有効性の監視・評価方法」「結果のレビュー方法」
が追加されました。
特に「変更後の有効性の確認」が2015年版からの最大の変更点です。
Q16:どこまでの変更を6.3の対象とすべきですか。軽微な変更もすべて記録が必要でしょうか。
対象範囲は組織が決めて構いません。まずは変更の「入口」を洗い出すことをお勧めします。

ISO14001の附属書でも、
新規の製品・設備、材料・プロセス・技術の変更、要員や外部提供者の変更、サプライチェーンの混乱・自然災害
などによる事業の中断が例示されています。
審査でよくある指摘は「変更申請書はあるが、有効性の確認欄が空欄」です。
対象を絞ってでも、確認まで完結させる運用を優先してください。
Q17:変更管理の「有効性」は、どのように判断すればよいのですか。
ポイントは、変更を実施する前に「何がどうなれば成功か」という判断基準を決めておくことです。
変更後に「問題なし」と書くだけでは、有効性を評価したことになりません。
① 計画時変更の目的・意図した結果を具体的に決める
② 計画時判断に使う指標・目標値・確認時期・確認者を決める
③ 実施後意図した結果の達成度と、副作用(新たな不適合・苦情・環境影響・法令違反)の有無を確認する
④ 判定「有効/一部有効/無効」を判定し、不十分なら追加処置や計画の見直しを行う
⑤ 記録結果を台帳に残し、マネジメントレビューへ報告する

リスク及び機会・環境側面
Q18:ISO9001でリスクと機会が分離されました。既存のリスク一覧表は作り直しが必要ですか。
様式の見直しをお勧めします。
2015年版は管理方法も記録も一体で、結果として「機会」が「リスク」に埋もれやすい設計でした。
2026年版は6.1.1 リスク及び機会の決定/6.1.2 リスクへの取組み/6.1.3 機会への取組みに分かれ、
それぞれ「決定し、分析し、評価する」という3段階が明文化されています。
決定・分析・評価を分けて記録できる様式に見直すことが実務対応の要点です。
波及箇所として、9.1.3(分析及び評価)や9.3.2(マネジメントレビューのインプット)でもリスクと機会が別項目になっています。
分析評価表とマネジメントレビュー議事録の様式もあわせて見直してください。
Q19:ISO14001で「6.1.4 リスク及び機会」「6.1.5 取組みの計画策定」が独立しましたが、環境側面から目標への流れは変わりますか。
流れ自体は変わりませんが、「つながり」の明示が求められます。
リスク及び機会の源は、次の3系統です。
- 4.1・4.2(外部・内部の課題、利害関係者のニーズ及び期待)
- 6.1.2 環境側面
- 6.1.3 順守義務
決定方法は組織に委ねられていますが、
取り組む必要があるリスク及び機会は「文書化した情報として利用可能な状態にする」ことが明確な要求です。
審査では、著しい環境側面・順守義務・リスク及び機会が、6.1.5の計画にきちんと展開されているかが確認されます。
Q20:「リスク及び機会」の特定から「著しい環境側面」の特定まで、一連の流れをわかりやすく教えてください。
まず押さえていただきたいのは、
規格上は「著しい環境側面」がリスク及び機会の「インプット(源)」の一つだという点です。
ただし実務では、課題の変化が環境側面の評価見直しを促すなど、全体が1つのループとして回ります。


事業継続(BCP)・緊急事態
Q21:改正で「事業継続(BCP)」が関係すると聞きました。具体例を教えてください。
今回の改正では、事業継続の考え方が業務の「中断」への配慮として反映されました。
- ISO90016.1.2(リスクへの取組み):中断中・中断後も適合した製品・サービスを提供する能力に関わるリスクを含み得る
/8.2.1(顧客とのコミュニケーション):緊急時・事業継続に関する事項 - ISO140016.1.2 c):環境影響を与える可能性のある潜在的な緊急事態の決定
/8.2:緊急事態への準備及び対応
BCP(事業継続計画)の文書そのものを新たに作ることは要求されていません。
既にBCPがある組織は、リスク一覧や緊急事態対応手順と紐づけておけば十分です。

内部監査・マネジメントレビュー
Q22:内部監査計画書の「監査目的」には、具体的に何を書けばよいですか。
適合性の確認に加えて、「有効性」の観点を明記してください。
2026年版では監査目的の明確化が追加され、規格に適合しているかだけでなく、
目標やプロセスのパフォーマンス向上に寄与しているかという有効性の監査が求められます。
よくある指摘は「監査目的の記載がない」「毎回同じ定型文」です。
その年の重点課題を目的に設定すると、実質的な監査になります。

Q23:内部監査員の再教育は必須ですか。いつまでに行えばよいですか。
規格に「再教育せよ」という明示の要求はありませんが、
7.2(力量)の観点から実質的に必要です。
目安として、移行準備の中盤(3〜9か月)で再教育を行い、
改訂文書に基づく内部監査を1サイクル回して実効性を確認する流れをお勧めします。
内容は新箇条(リスクと機会の分離、6.3変更の計画、4.1気候変動、品質文化・倫理的行動など)を中心に構成し、
改訂後の初回内部監査の前に完了させてください。
Q24:マネジメントレビューのインプット項目は追加が必要ですか。
議事録のインプット欄の更新が必要です。
- ISO9001インプットが「考慮する」から「含めなければならない」に強化。
「利害関係者のニーズ及び期待の変化」が追加され、「リスク」と「機会」が別項目に - ISO140019.3が一般/インプット/結果の3つに整理。「アウトプット」→「結果」の用語変更を含め、内容は実質的に同じ
なお審査上、「監査結果」には内部監査だけでなく顧客監査・行政の立入・認証審査の結果も含まれる点、
「資源の妥当性」は設備だけでなく協力会社を含む要員も対象となる点にご注意ください。
その他
Q25:中小企業でリソースが限られています。何から手を付けるべきでしょうか。
優先順位は次の3点です。
- 共通・重要項目から着手6.3変更の計画、9.2.2監査目的、9.3マネジメントレビュー、文書化した情報の表現、4.1気候変動の判断記録
- 完璧を目指さないギャップ分析はまず一巡させ、PDCAで精度を上げる
- 記録の残し方を一段丁寧に新しい仕組みを作るより、既存の記録に「何の課題・リスクに対応した記録か」を一言添える

Q26:ISO9001はFDIS(最終国際規格案)で解説されることが多かったですが、正式発行版で内容は変わりましたか。
FDISは投票を経た最終段階の案で、この段階以降は原則として編集上の修正にとどまります。
今回の改訂は規格の目的・タイトル・全体構成が維持されており、大幅な変更は行われていないと評価されています。
ただし、条文細部の表現が調整されている可能性はあります。
正式発行版(2026年9月16日)および JIS Q 9001:2026(2026年12月発行予定)の条文で必ずご確認ください。
日常業務が忙しく、改正対応ができない場合は
Q27:日常業務が忙しく、改正対応まで手が回りません。解決策はありますか。
セミナー後のアンケートでも寄せられた、切実なお悩みです。解決策は次の3つです。
- 範囲を絞るまずはQ7の「最低限の5点」に限定し、移行審査に必要な部分から片付ける
- 「判断」と「作業」を分ける方針や重点課題の決定は社内で行い、
ギャップ分析表・規定改訂案・様式づくりなどの作業部分は外部の専門家に任せる - 期限から逆算する認証機関の審査日程を先に確認し、そこから逆算した無理のないスケジュールを最初に固める


改正対応マンツーマンでお手伝いします。
現役のISO審査員であり、行政書士でもある代表の永島が、
審査する側の視点と文書作成の専門家としての視点から、
御社の実情に合わせて支援いたします。
