ISO9001を導入・運用する際に、多くの担当者の頭を悩ませるポイントのひとつが「文書化の必要性」です。
ISO9001が2015年に改訂されてから、審査はより実務に即した形式で実施されるようになりました。
改訂以前は、何かと文書化が要求され、文書化されていないと不適合になることもありました。
今の要求事項では、必要以上の文書化は求められておりません。
但し、必要とされる項目においての文書化は要求事項として明記され求められています。

「この作業は記録が必要なのか?文書にすべきなのか?」
「どこまでをマニュアルや手順書にしないといけないのか?」
JIS Q 9001:2015(品質マネジメントシステム)では、文書化された情報を次の2つに分類しています。
業務の進め方やルールを定めたもの
業務を実施した証拠として残すもの
この記事では、それぞれの文書化された情報について、JIS Q 9001が要求する内容と、実務上の対応例を詳しく解説します。
文書と記録の違いとは?
文書と記録の違いを簡単に言うと、
・文書は「これからどう動くか」を示すもの
・記録は「実際に何をしたか」を証明するもの
になります。
区分 | 目的 | 例 | 備考 |
---|---|---|---|
維持すべき文書(文書) | 業務の実施に必要な手順や基準を定める | 品質マニュアル、手順書、 目標・目的・方針書 | 将来の活動を導く情報 |
保持すべき記録(記録) | 実施したことの証拠・結果を示す | 点検記録、教育訓練記録、 不適合記録 | 過去の活動を示す証拠 |
維持すべき文書(文書に相当するもの)
以下は、JIS Q 9001:2015が要求する”文書”に相当する情報と、実務での対応例です。
規格箇条 | 内容 | 実務での文書例 |
---|---|---|
4.3 | 組織のQMSの適用範囲に関する文書 | 品質マニュアル |
4.4.2 a) | プロセスの運用を支援するための文書 | 組織図、業務フロー図、標準作業手順書 |
5.2.2 | 品質方針に関する文書 | 品質方針、社内掲示物、イントラ上のPDF |
6.2.1 | 品質目標と達成計画に関する文書 | 品質目標一覧、品質目標達成計画書、進捗管理表 |
8.1 e) 1) | プロセスが計画通りに実施されたという確信を持つため、 並びに製品及びサービスの要求事項への適合を実証するための文書 | 運用計画書、標準業務フロー |
保持すべき記録(記録に相当するもの)
以下は、ISO9001が記録として要求している文書化された情報と、現場での記録例です。
規格箇条 | 内容 | 実務での文書例 |
---|---|---|
4.4.2 b) | プロセスが計画通りに実施された証拠 | 作業日報、完了チェックリスト |
7.1.5.1 | 測定機器の校正または検証記録 | 校正証明書、校正履歴台帳 |
7.1.5.2 a) | 校正がない場合の検証結果 | 比較検証記録、使用確認記録 |
7.2 d) | 力量の証拠 | 力量評価表、教育訓練記録、資格証明書、技能試験合格証 |
8.1 e) | プロセスが計画通りに実施されたという確信を持つため、 並びに製品及びサービスの要求事項への適合を実証するための文書 | QC工程表、作業手順書 |
8.2.3.2 | レビューの結果、並びに製品及びサービスに関する新たな要求事項に関する文書 | 顧客要望変更届、仕様変更連絡書 |
8.3.2~8.3.6 | 設計・開発の記録 | 要求仕様書、設計インプット・アウトプット、レビュー・ 変更記録 |
8.4.1 | 外部供給者の評価記録 | 取引先評価票、購買先選定記録 |
8.5.2 | トレーサビリティの証拠 | 製品ID管理台帳、ロット追跡表 |
8.5.3 | 顧客や外部供給者の所有物管理記録 | 受託品管理台帳、事故報告書 |
8.5.6 | 変更管理記録 | 変更依頼書、変更承認記録 |
8.6 | 出荷証明と検査記録 | 検査記録、合否判定表、出荷判定書 |
8.7.2 | 不適合及び処置の記載 | 不適合報告書、是正処置報告書、逸脱記録、 |
9.1.1 | 監視測定の結果記録 | モニタリング報告書、測定データログ |
9.2.2 | 内部監査記録 | 監査チェックリスト、監査報告書、指摘事項リスト |
9.3.3 | マネジメントレビュー記録 | レビュー議事録、報告書、会議資料 |
10.2.2 a) | 是正処置の証拠 | 是正処置報告書、再発防止策確認記録 |
文書管理の注意点
ISO9001では、文書と記録は単に”作成しただけ”では不十分です。審査では、次のような”管理”の状況が重点的に確認されます。
- 最新版の管理:文書が最新の版で運用されているか、旧版が誤って使用されていないか
- アクセス制御:誰がどの文書・記録を閲覧・編集できるかのルールが明確か
- 媒体と保存期間の設定:電子、紙など媒体の指定、保持年数の明文化
- 破棄・更新の管理:廃棄ルール、版管理表の整備

例えば、”古い手順書が現場に掲示されていた”といった状況は、審査での指摘の典型例です。
社内で文書・記録の棚卸を定期的に行い、管理状況を見直すことが重要です。
当事務所がサポートできること
弊所では、ISO9001における文書・記録整備に関して、以下のような実務支援を提供しています:
- 文書・記録の棚卸支援:現在の体制を可視化し、必要・不要を仕分けます。
- 必要最小限の仕組みづくり:ムダな文書化を省き、実務に即した形で簡潔なルールを構築します。
- 教育訓練記録や手順書のテンプレート提供:自社に合わせてカスタマイズ可能なテンプレートを用意し、スムーズな導入を支援します。
- 内部監査・文書管理体制の構築アドバイス:規格適合性だけでなく、実効性を重視した提案を行います。
まとめ
ISO9001では「文書化された情報」は単なる形式ではなく、業務の安定・改善のための”基盤”です。
どの文書を整備し、どの記録を残すべきかを明確にすることで、社内の混乱や無駄を防ぎ、審査対応もスムーズになります。
当事務所では、品質マネジメントシステムの構築・文書整備の支援を行っております。
ISO導入をご検討中の企業様は、お気軽にお問い合わせください。