ISO14001の改正状況について、
2025年6月の東京会議でFDIS(最終国際規格案)が作成され、
要求規格条項ごとに具体的に明示されたので、今回ひとつひとつ解説していきます。
改定時期、改訂状況
統合追補版は2026年1月を目処に発行予定。
移行期間は2年。
改正に伴う特別審査の予定はなし。
2025年中旬にDIS(国際規格原案)、2026年7〜9月予定でFDIS(最終国際規格案)が作成され、大幅な改訂予定。
2026年9月発行を目指している
移行期間は3年

ISO14001の次回改定の発行形態ですが、“Consolidated amendment(統合追補版)”として発行されることとなり、
2026年発行を目指してDraft版が開発されています。
※このややこしい言い回しである“Consolidated amendment”を直訳すると「連結補正」となり、
“Consolidated”は「連結」、「統合」
“amendment”は「修正」、「変更」
の意味になります。
昨年2月に発行された気候変動対応の“amendment1 ”、「追補1」は、
現行規格の箇条4.1と4.2にそれぞれ1文が追加され、追補版としては追加されたところのみが発行されました。
それに対して「統合追補」は規格への追加という位置付けなのですが、
元の規格も併せて発行して1セットとするという意味になります。
しかしながら、本来の「追補」という意味は元の版の内容はそのままとし、章の最後などに文を追加することであり、
今回は元の規格が一部変更されていたり、箇条の構成が変更されていたりするので、
厳密には追補ではなく、改定にあたる内容になると推測されます。
ISO14001:2015からの差異を分析
それでは、各要求事項ごとにISO14001:2015年版からの差異を解説していきます。
※今回は、まだドラフト版の内容ですので、ISの正規発行時には変化している可能性があります。
01 背景

まずは規格の背景に利害関係者との関係性が追加、明確となりました。
3 用語及び定義 3.2 計画に関する用語

用語の定義としては「リスク」という単独の定義が削除されました。
以前の「リスク」の定義では、上振れ、下振れの両方、即ち良い方に乖離することも含まれていた為、
定義することが難しい側面もあった為、削除されたと考えられます。

「リスク」の定義が削除されましたが、その次にある「リスク及び機会」で
有害な影響を「リスク」、有益な影響を「機会」と明示するようになりました。
4.1 組織及びその状況の理解

組織の活動そのものや組織が提供する製品及びサービスは、環境に影響を与える可能性があります。
また、逆に、気候変動など受ける側の内容として環境状態が組織に影響を与える可能性もあります。
これらの影響は、組織及び組織の利害関係者にとって懸念事項となる可能性があります。
組織及びその状況の理解は、組織の目的及び戦略的な方向性を支援することにおいて、
環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、継続的に改善するためのベースとなるものです。
外部及び内部の課題として、汚染レベル、天然資源の利用可能性、気候変動、生物多様性又は生態系の健全性など、事例が具体化されました。
例示以外のものを含めることは可能であると思いますが、例示されているものはあくまでも例示なのか、
関連があれば含める必要があるのかどうかは、現時点では分かりにくい内容になっています。
4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解

4.2項、利害関係者のニーズ及び期待の理解です。
まずは順守義務の要求事項の項番が参照されるようになりました。(6.1.3要求項番の変更はありません)
注記が追加され、関連する利害関係者のニーズ及び期待の例として汚染レベル、天然資源の利用可能性、気候変動、生物多様性又は生態系の健全性などが利害関係者のニーズ・期待として含まれることが明示されました。
4.1と同様の趣旨です。
環境汚染物質規制の順守、天然資源の消費抑制、温室効果ガスの排出に関する情報の報告、生物多様性及び生態系の健全性を保護するための組織的な活動、GHG排出量(Greenhouse Gas (温室効果ガス) の排出量)などに代表される環境に関連するサスティナビリティへISO14001が活用可能であることが伺えます。
4.3 環境マネジメントシステムの適用範囲の決定

4.3 環境マネジメントシステムの適用範囲の決定では、
適用範囲を決定するときの考慮事項のe)項、“管理し影響を及ぼす、組織の権限及び能力”に、
“ライフサイクルの視点を考慮した”という内容が追加されました。
文書化した情報の管理の表現が“維持しなければならず、かつ、利害関係者がこれを入手できるようにしなければならない。”から、
“利害関係者が入手可能でなければならない。”に見直されました。
5.1 リーダーシップ及びコミットメント

5.1 リーダーシップ及びコミットメントi)項では、“管理層”という表現が削除されました。
これは、管理層の役割を支援するだけでなく、組織全体としての支援が求められるという意味と推測されます。
5.2 環境方針

注記の中でコミットメントとして
“持続可能な資源の利用、気候変動の緩和及び気候変動への適応、並びに生物多様性及び生態系の保護”に加えて、
“天然資源の保護”が追加されています。
以前の注記にも“持続可能な資源の利用”とあるように資源の無駄使いを抑え、
リサイクルや再利用を促進して土地、水、鉱物、森林などを保護していくことが強調された内容と思われます。
6 計画 6.1リスク及び機会への取組み

箇条6の章構成の見直しが実施され、
6.1.1項に記載されていたリスク及び機会が6.1.4項として単独箇条になりました。
6.1.5取組みの計画策定はこの項番挿入により後ろにずれています。
また、6.3項の変更の計画と管理の項が追加されました。

箇条6.1のリスク及び機会への取組みは、
組織が取り組む必要があるリスク及び機会を決定し、それらへの取組みを計画することによって、
環境マネジメントシステムの意図した成果(環境保護、順守、環境パフォーマンスの向上)を達成し、
望ましくない影響を防止又は低減し、継続的改善を達成することができるという内容ですが、
独立箇条6.1.4ができ、そこに移動しました。
それに伴い、参照する箇条が6.1.5までになっています。

現行規格では6.1.1 一般 で
“環境マネジメントシステムの適用範囲の中で、環境影響を与える可能性のあるものを含め、
潜在的な緊急事態を決定しなければならない。”
と要求されていました。
緊急事態については6.1.2項に移行され、
“組織は、環境影響を与える可能性のある潜在的な緊急事態を決定しなければならない。 ”
となったため、環境に関する緊急事態だけ考慮すれば良いのか?
と要求の対象が狭くなっているように読めることが懸念されます。
8.2 緊急事態への準備及び対応については規格要求事項自体の変化ありませんが、
附属書の説明において、従来の、
“組織独自のニーズに適切な方法で緊急事態に対して準備し、対応することは、それぞれの組織の責任である。“
に追加して、
“また、必要に応じて、プロセス及び計画した対応処置を定期的にレビューし、改訂することも組織の責任である。”
が明示されました。

4.3項にもありましたが、“文書化した情報を維持しなければならない。”
は“文書化した情報として利用可能な状態にしなければならない。”
に変更されています。

「文書化した情報」については附属書Aで説明があります。
記録以外の文書類を意味する場合の“文書化した情報を維持する”という以前の表現を、
“文書化した情報として利用可能な状態にしなければならない”という表現に置き換えました。
また、記録を意味する場合の“証拠として、文書化した情報を保持する”という以前の表現を、
“証拠として、文書化した情報を利用可能な状態にしなければならないという表現に置き換えました。
“…の証拠として”という表現は、法的な証拠となる要求事項を満たすことの要求ではなく、
保持する必要がある客観的証拠を示すことだけを意図している。
という内容は今まで通りです。
“利用可能な状態”とは、
組織が有効な環境マネジメントシステムを確実にするために情報を取得し、使用し、又は提供できることを意味する、
としています。
6.1.2 環境側面

環境側面の注記にライフサイクルの視点についての説明が追加されました。
“ライフサイクルの各段階には、原材料の取得、設計、製造、輸送又は配送(提供)、使用、使用後の処理及び最終処分が含まれ得る。 ”
との説明ですが、詳細なライフサイクルアセスメントを要求するものではなく、
組織が管理できる又は影響を及ぼすことができるライフサイクルの段階について注意深く考えることを求めています。

a)項の変更された活動、製品及びサービスの関連で、6.3項の変更管理の独立箇条新設に伴い、6.3項の箇条が参照となっています。
b)項の“非通常の状況及び合理的に予見できる緊急事態 ”が
b) 非通常の状況
c) 潜在的な緊急事態
に分けられました。
注記ではリスク及び機会の用語の定義変更に伴い、表現が見直されています。
6.3 変更の計画策定及びマネジメント

変更のマネジメントは、組織が継続して環境マネジメントシステムの意図した成果を達成できることを確実にする、
環境マネジメントシステムの維持の重要な部分になります。
今までこの箇条はなく、8.運用の8.1運用の計画及び管理の中に変更管理が示されていましたが、
QMSのように独立箇条として強化されました。
これにより、変更のマネジメントとして、予めわかっている変更について評価をし、
予想される影響及び環境影響に関してその予防対策についても計画することができ、
意図した有益な影響が達成され、有害な影響又は有害な環境影響をもたらすような、
意図しない結果を緩和又は最小限に抑えられることを確実にできることが期待されます。
箇条8.1の変更管理についての記述はそのまま残っており、
ここでは意図しない変更が発生した場合の管理を実施することになります。
但し、附属書A(この規格の利用の手引き)では新たに説明文が追加され、
変更には計画的なものと非計画的なものがあるというような解説になっているため、
この箇条で取り扱うことも妥当であると思います。
8 運用 8.1 運用の計画及び管理

先ほどの、変更管理の文の後に続く文章でアウトソース管理の内容です。
プロセス、製品又はサービスが外部提供者によって提供される場合、
管理する又は影響を及ぼす組織の程度には、直接的に管理できるものから、
限定的なもの又は全く影響を持たないものまで、様々ですが、
管理しなければならないレベルを決めて実施する必要があるということです。
社内にあった大量にエネルギーを使う炉や有機溶剤の使用工程を外注に出したから、
会社の環境負荷は削減できたとは単純に言えないということもあろうかと思います。
外部委託したプロセスという表現が、外部から提供されるプロセス、製品又はサービスという表現に見直されています。
但し、内容の変更はありません。
9 パフォーマンス評価

パフォーマンス評価です。
9.1監視、測定、分析及び評価 では、
a)項の表現に“分析”ということが追加されています。
9.2 内部監査では、
“目的”ということが追記されています。
監査の目的、重点ポイントなどを明確にすることで、内部監査の効果が更に期待できるような変更になるかと思います。
9.3 マネジメントレビュー

9.3項マネジメントレビューです。
2015年版には9.3項以下の細分箇条番号はありませんでしたが、
9.3.1 一般
9.3.2 マネジメントレビューへのインプット
9.3.3 マネジメントレビューの結果
という細分箇条が設置され、タイトルが付けられました。
インプットのa) 前回までのマネジメントレビューの結果とった処置の状況から、
g)継続的改善の機会までの項目は
“考慮しなければならない”から
“含めなければならない”
と変更になりました。
これにより、例えばインプット規格要求事項d)次に示す傾向を含めた、
組織の環境パフォーマンスに関する情報、3)順守義務を満たすことでは
「今までは考慮しました、でも問題ないから、マネジメントレビュー議事録に記載していません」はOKとなっていましたが、
問題なければ問題ないということをインプットしたとして明確にしておいてください
ということが必要になってくると思われます。
まとめ
今回ご紹介したISO14001の改正情報は、あくまで現時点でのドラフト案に基づくものではありますが、
具体的な改正ポイントが初めて明らかになったという点で、大変重要な意味を持っています。
特に「気候変動」「サプライチェーン」「利害関係者との関係強化」など、実務に直結する内容が多く、
環境マネジメントシステムを運用する企業にとって備えが必要な内容といえるでしょう。

当事務所では、今後も改正の動向を継続的にウォッチし、
実務に役立つ最新情報を発信していきます。
ISO等の認証に伴う、継続的運用や改正対応についてご不安がある方は、
ぜひお気軽にお問い合わせください。