2026年4月15日、ついに ISO14001:2026 が正式発行されました。
当初「追補(Amendment)」として進んでいた改訂は、
修正範囲の広さから「改訂版(IS)」へと切り替えられ、全面的なリニューアルとなっています。
また、ISO9001についても2026年9月の発行を目指して改訂作業が進んでいます。
本記事では、認証登録組織が知っておくべき主要な変更点と移行対応について、詳細に解説します。
改訂の概要・背景
ISO14001の今回の改訂は、以下の2つの柱に基づいています。
① 附属書SL(Harmonized Structure)への対応
附属書SL(現在は「調和させる構造 / Harmonized Structure」)は、
ISO 9001・14001などのマネジメントシステム規格を作成する際の共通ルール(上位構造・共通テキスト)です。
2012年以降の全ISO規格に適用され、複数規格の統合運用を容易にすることを目的としています。
ISO14001:2026では、この最新版(2025年10月15日版)への整合が求められています。
② ISO14001固有の明確化・ガイダンス強化
気候変動・生物多様性・サプライチェーン・人権など、環境をめぐる世界的な要請の急激な高まりに対応するため、
附属書A(この規格の利用の手引き)の内容が大幅に強化されています。
要求事項自体の変更は比較的少ないものの、解釈ガイダンスが現状に即した形でアップデートされています。

当初「追補(Amendment)」として開発が進んでいましたが、修正箇所がかなり多くなり、不便な構成になることが判明したため、途中で「改訂版(ISO14001:2026)」へと発行形態が切り替えられました。
これにより、移行のための特別審査が必須となります。
ISO14001:2026 主な改訂内容
3章:用語及び定義
「リスク」の単独定義が削除されました。
従来の定義では「リスク」に上振れ・下振れ両方の意味が含まれており、解釈の混乱を招いていました。
今後は「リスク及び機会」という用語セットで定義され、リスク=有害な影響、機会=有益な影響と明確に区分されます。
| 用語 | ISO14001:2015(旧) | ISO14001:2026(新) |
|---|---|---|
| リスク | 「不確かさの影響」(上振れ・下振れ両方含む単独定義あり) | 単独定義を削除 |
| リスク及び機会 | 「潜在的で有害な影響(脅威)及び潜在的で有益な影響(機会)」 | 「潜在的で有害な影響(すなわち、リスク)及び潜在的で有益な影響(すなわち、機会)」と明確化 |
4章:組織の状況
4.1 組織及びその状況の理解
外部・内部の課題として考慮すべき環境状態の範囲が大幅に拡大されました。
「気候変動」のみに限定されず、以下の事項すべてを含めることが明確化されています。
| ISO14001:2015(旧) | ISO14001:2026(新) |
|---|---|
| 組織から影響を受ける、または組織に影響を与える可能性がある環境状態を含める(漠然とした表現) | 汚染レベル、天然資源の利用可能性、気候変動、生物多様性、生態系の健全性などの環境状態を含めなければならない(列挙による明確化) |
附属書A 4.1 追記内容
「生態系の健全性」の定義が新たに追加。
生態系は植物・動物・微生物などが相互作用して形成される機能単位であり、自然資本の重要構成要素として、組織の活動が生態系を
「保全・強化・劣化」させる可能性があることが説明されています。
4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解
利害関係者のニーズ及び期待の例示として、4.1と同様に汚染レベル、天然資源の利用可能性、気候変動、生物多様性、生態系の健全性などが追加されました。
また、「順守義務となり(6.1.3参照)、環境マネジメントシステムを通して取り組むもの」という表現が追加され、順守義務との連携が強化されています。
4.3 環境マネジメントシステムの適用範囲の決定
考慮事項 e) において「管理及び影響を及ぼす、組織の権限及び能力」という表現に
「組織の活動・製品・サービスのライフサイクル」の視点が明確化されて追記されました。
重要:文書化した情報の表現変更(規格全体共通)
規格全体を通じて、文書化した情報の管理に関する表現が以下のように変更されます。
✗ 旧:「文書化した情報を維持し」 → ✓ 新:「文書化した情報として利用可能な状態にし」
✗ 旧:「文書化した情報を保持し」 → ✓ 新:「…の証拠として、適切な文書化した情報を利用可能な状態にし」
「利用可能(available)」とは、組織が情報を取得・使用・提供できることを意味します。
5章:リーダーシップ
5.1 i) の表現が変更されました。
| 条項 | ISO14001:2015(旧) | ISO14001:2026(新) |
|---|---|---|
| 5.1 i) | 「その他の関連する管理層がその責任の領域においてリーダーシップを実証するよう、管理層の役割を支援する」 | 「その他の関連する役割がその責任の領域においてリーダーシップを実証するよう支援する」 → 管理層に限らず、あらゆる役割が対象に |
附属書A 5.1 追記内容
トップマネジメントに関して「組織文化の醸成」など、実施事項がより具体的に明確化されました。
また、「環境及び持続可能性の課題に対する行動を通じて、リーダーシップを実証し、利害関係者との信頼関係を高めることが可能である」
との記述が追加されています。
6章:計画(大きく再編)
6.1 の構造が大幅に変わります
2015年版の「6.1.1〜6.1.4」の4項目から、2026年版では「6.1.1〜6.1.5」の5項目に整理されました。
特に「リスク及び機会」が独立した項番(6.1.4)に昇格し、要求事項の流れが格段に理解しやすくなっています。
| ISO14001:2015(旧) | ISO14001:2026(新) |
|---|---|
| 6.1.1 一般(リスク及び機会を含む) | 6.1.1 一般(プロセス全体への要求) |
| 6.1.2 環境側面 | 6.1.2 環境側面(緊急事態の決定を移管) |
| 6.1.3 順守義務 | 6.1.3 順守義務 |
| 6.1.4 取組みの計画策定 | 6.1.4 リスク及び機会 ★独立・昇格 |
| (なし) | 6.1.5 取組の計画策定 ★番号変更 |
| (なし) | 6.3 変更の計画策定 NEW |
6.1.1 一般(変更のポイント)
旧6.1.1にあった「リスク及び機会」に関するパラグラフの大部分は新6.1.4に移動。
また「潜在的な緊急事態の決定」に関する要求事項は6.1.2へ移動しました。
6.1.1は6.1.2〜6.1.5全体のプロセスに関する一般要求として位置付けられます。
6.1.2 環境側面(変更のポイント)
- 旧6.1.1にあった「潜在的な緊急事態の決定」が移動されました(8.2と連携)
- 「ライフサイクルの視点」に関する注記が追加(注記1として、ライフサイクル各段階の例を明示)
- 通常・非通常の状態の考慮が c) として明示化
- 著しい環境側面の注記の場所が移動(用語「脅威」の削除と整合)
6.1.4(新)リスク及び機会の内容は、旧6.1.1にあった要求事項がそのまま移動したものです。
運用面での大きな変更はありませんが、要求事項の構成が整理されたことで、
審査時の確認ポイントが変わる可能性があります。
6.3 変更の計画策定 NEW
新設項番
「変更の管理」が独立した要求事項として新設されました。
これまで附属書A.1の手引きに記載されていた内容が、要求事項本文へと格上げされたものです。
「環境マネジメントシステムに影響を与える、または影響を与える可能性のある変更に対する管理」が求められます。
変更の事例(新製品・プロセス変更・スタッフ変更・事業中断など)については、附属書A.6.3に詳しく記載されています。
7章:支援
附属書SLに合わせた表現の見直しのみで、2015年版から大きな要求事項の変更はありません。
ただし附属書A 7.3(認識)には昨今の状況を反映した例示(従業員の参加・コミュニケーション・行動規範等)が多く追加されています。
また附属書A 7.4(コミュニケーション)には、外部コミュニケーションに関する記述が大幅強化され、
投資家・サプライチェーン・顧客等とのコミュニケーションの重要性が明示されました。
8章:運用
表現変更
8.1において「外部委託したプロセス」という表現が「外部から提供されるプロセス、製品又はサービス」へと変更されました。
これはサプライチェーン全体への管理責任を明確にする趣旨です。
附属書A.8.1には「購買文書への要求事項の記述」をはじめとした管理例が新たに追加されています。
| ISO14001:2015(旧) | ISO14001:2026(新) |
|---|---|
| 「外部委託したプロセス」が管理されていることを確実にする | 「外部から提供されるプロセス、製品又はサービス」が管理されていることを確実にする |
9章:パフォーマンス評価
9.2.2 内部監査プログラム
内部監査に関して、文書化要求の対象として「監査プログラム」が明確に追加されました。
また各監査において「審査目的」を明確にすることも新たに求められます。
| 項目 | ISO14001:2015(旧) | ISO14001:2026(新) |
|---|---|---|
| 監査での明確化事項 | 「監査基準及び監査範囲」を明確にする | 「審査目的、監査基準及び監査範囲」を明確にする(★審査目的が追加) |
| 文書化の対象 | 「監査プログラムの実施及び監査結果の証拠」 | 「監査プログラム、監査プログラムの実施の証拠、監査結果の証拠」(★監査プログラム自体が追加) |
9.3 マネジメントレビュー(構造変更)
| ISO14001:2015(旧) | ISO14001:2026(新) |
|---|---|
| 9.3 マネジメントレビュー(一本化) | 9.3.1 一般 |
| (インプットとアウトプットが混在) | 9.3.2 マネジメントレビューへのインプット |
| 9.3.3 マネジメントレビューの結果 |
9.3.2 マネジメントレビューへのインプットの表現が、「考慮しなければならない」から「含めなければならない」へ変更されました。
これにより a)〜g) の全項目を網羅的に含めることが義務化され、一部省略することはできなくなります。
また「アウトプット」という用語が「結果」へ変更されています。
10章:改善
| ISO14001:2015(旧) | ISO14001:2026(新) |
|---|---|
| 10.1 一般 | 10.1 継続的改善(10.1+10.3が統合) |
| 10.2 不適合及び是正処置 | 10.2 不適合及び是正処置 |
| 10.3 継続的改善 | (10.1に統合・削除) |
新旧構造対比表(全体)
| ISO14001:2015(旧) | ISO14001:2026(新) |
|---|---|
| 3 用語及び定義(リスクの単独定義あり) | 3 用語及び定義(リスクの単独定義を削除) |
| 4.1 外部・内部の課題(環境状態の記述が漠然) | 4.1 汚染・気候・生物多様性・生態系等を列挙 |
| 4.3 適用範囲の決定 | 4.3 ライフサイクルの視点が明確化 |
| 5.1 i) 管理層への支援 | 5.1 i) 「管理層」→「役割」(対象拡大) |
| 5.3 組織の役割、責任及び権限 | 5.3 役割、責任及び権限(「組織の」削除) |
| 6.1.1〜6.1.4(4項目) | 6.1.1〜6.1.5(5項目に再編) |
| 6.1.1 一般(リスク及び機会を含む) | 6.1.1 一般 + 6.1.4 リスク及び機会(独立) |
| 6.1.4 取組みの計画策定 | 6.1.5 取組の計画策定(番号変更) |
| (なし) | 6.3 変更の計画策定(新設) |
| 7.5.2 作成及び更新 | 7.5.2 文書化した情報の作成及び更新(表題変更) |
| 8.1 外部委託したプロセス | 8.1 外部から提供されるプロセス、製品又はサービス |
| 9.2.2 内部監査プログラム(監査基準・範囲) | 9.2.2 審査目的の追加・監査プログラムの文書化追加 |
| 9.3 マネジメントレビュー(1項目) | 9.3.1〜9.3.3(3項目に分割) |
| 9.3.2 インプット「考慮しなければならない」 | 9.3.2 インプット「含めなければならない」(義務化) |
| 10.1 一般 + 10.3 継続的改善 | 10.1 継続的改善に統合(10.3を削除) |
ISO9001:2026 改訂状況
最新状況(2026年4月15日時点)
ISO9001については、3月16日付のご案内以降、特段の変更はありません。
2026年4月頃にFDIS(最終国際規格案)が発行され、2026年9月頃に改訂版(ISO9001:2026)が正式発行される見込みです。
最新状況はISOの公式サイトでも確認できます。
ISO9001の改訂背景として、2015年版から約10年が経過し、以下の社会変化への対応が求められています。
- サプライチェーンのグローバル化への対応
- デジタル化・AIの進展
- サステナビリティ・ESGへの期待
- 附属書SL(Harmonized Structure)への整合
統合認証をお持ちの方へ
ISO14001とISO9001を統合(MS統合)で受審されている場合、
原則としてISO9001と同時に移行することをお勧めします(ISO14001:2026が先行発行済み、ISO9001:2026は2026年9月改訂見込み)。
移行審査の効率化の観点から、同時対応が望ましいです。
特別審査(移行)について
ISO14001:2026の発行に伴い、移行のための「特別審査(移行)」が必須となります。
現時点でIAF(国際認定フォーラム)からのグローバル移行ルールが正式発行されていません。
移行期間・審査工数・ギャップ分析の必要性等は、正式な基準文書の発行を待っている状況です。
具体的なスケジュールが明確になり次第、審査機関よりご案内があります。
| 項目 | 時期・区分 | 詳細 |
|---|---|---|
| 新規格への移行期限 | IS発行から3年間(見込) | グローバルでの移行ルール正式発行後に確定。ISO14001:2026は2026年4月15日発行のため、2029年4月頃が目安(見込) |
| 特別審査(移行) | 必須 | 原則、サーベイランスまたは更新審査と同時実施。QMSとのMS統合受審の場合は、 ISO9001と同時移行を推奨 |
| 特別審査工数 | 未定 | グローバルルール正式発行後に確定予定 |
| 事前打合会 | オプション(有料) | 特別審査(移行)に先立ち、ご希望により実施可能 |
| MS文書チェック | オプション(有料) | 特別審査(移行)に先立ち、ご希望により実施可能 |
| 移行説明会 | 時期未定 | オンライン・アーカイブでの実施を予定。グローバルルール発行後、速やかにご案内 |
| 規格の入手 | 即時可能 | ISO14001:2026(英語版):日本規格協会Webdeskで購入可能。邦訳版:2026年5〜6月発売予定。JIS版:2026年8月発行予定 |
まとめ:組織として対応すべきポイント
ISO14001:2026 移行対応チェックリスト
- 4.1:環境状態の課題特定範囲を拡大(生物多様性・生態系の健全性・天然資源等を追加)
- 4.2:利害関係者の環境関連ニーズを上記の観点から再整理
- 4.3:適用範囲の決定にライフサイクル視点を明示的に組み込む
- 6.1:新たな項番構成(6.1.1〜6.1.5)に合わせてリスク及び機会のプロセスを再整理
- 6.3(新設):変更の計画策定プロセスを要求事項として文書化・整備
- 7.5:文書化した情報の管理に関する表現(「利用可能な状態」)を更新
- 8.1:外部委託の表現を「外部から提供されるプロセス、製品又はサービス」に変更
- 9.2.2:内部監査プログラム自体を文書化、各監査での審査目的を明確化
- 9.3.2:マネジメントレビューのインプット全項目を必須(義務化)として対応
- 附属書A全体:特に4.1・4.2・5.1・6.3・7.4等の手引き強化内容を踏まえた運用見直し
移行スケジュールの見通し
ISO9001:2026は2026年9月発行予定です。
ISO14001とISO9001の両方を認証取得されている組織は、2026年後半〜2027年にかけて2規格同時の移行対応が想定されます。
早めの準備が重要です。IAFの正式な移行ガイドライン発行後に、審査機関から詳細のご案内があります。
当事務所でもサポートしますので、ご不明な点はお気軽にご相談ください。
